井関松山製造所事件(松山地判平30.4.25労経速2346号18頁)
裁判所名 :松山地方裁判所
裁判年月日 :平成30年4月24日
裁判区分 :判決
1.事件の概要
Xらは、農業機械メーカであるY社で、それぞれ被告におけるトラクター等の農業機械の製造に係るライン業務に従事していた。XらとY社の間では、期間定めのある労働契約を締結しており、Xらは、Y社と期間の定めのない労働契約を締結している従業員との間に、賞与、家族手当、住宅手当及び精勤手当の支給に関して不合理な相違が存在すると主張して、Y社に対し、当該不合理な労働条件の定めは労働契約法20条により無効であり、Xらには無期契約労働者に関する就業規則等の規定が適用される労働契約上の地位に在ることの確認、及び平成25年5月から平成27年4月までに支給される本件手当等については、同条の効力によりXらに当該就業規則等の規定が適用されることを前提とした労働条件に基づく賃金請求等を求めて提訴したのが本件である。
2.判決の要旨
争点1 労働契約法20条違反の成否について
(1)本件手当等の支給に関する相違
有期契約労働者であるXらには、賞与と同様の性質を有する寸志が一季5万円のみ支給され、家族手当、住宅手当及び精勤手当は支給されていないところ、無期契約労働者には賞与支給基準に従い賞与が支給され、その平均賞与額は一季35万円を超え、家族手当、住宅手当及び精勤手当が支給されており、本件手当等の支給に関して、Xらと無期契約労働者の間で相違がある(以下この相違を「本件相違」という。)。本件相違は、有期契約労働者であるXらと無期契約労働者で適用される就業規則が異なることによって生じていることは明らかであるから、各考慮要素を考慮して不合理であると認められる場合には、労働契約法20条に違反することになる。
(2)労働契約法20条違反の有無に係る判断枠組み
ア 労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件の相違について、各考慮要素を考慮して、「不合理と認められるものであってはならない」と規定し、「合理的でなければならない」との文言を用いていないことに照らせば、同条は、当該労働条件の相違が不合理であると評価されるかどうかを問題としているというべきであり、そのような相違を設けることについて、合理的な理由があることまで要求する趣旨ではないと解される。
イ そして、同条は、有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件の相違が不合理と認められるか否かの考慮要素として、①職務の内容、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲のほか、③その他の事情を掲げており、その他の事情として考慮すべきことについて、上記①及び②を例示するほかに特段の制限を設けていないことからすると、労働条件の相違が不合理であると認められるか否かについては、上記①及び②に関連する諸事情を幅広く総合的に考慮して、個々の労働条件ごとに判断すべきものと解される。
これに対し、Xらは、上記①及び②の事情が上記③の事情に比して重視されるべきであると主張する。しかし、労働契約法20条の文言及び厚生労働省労働基準局長通達「労働契約法の施行について」(平成24年基発0810第2号。以下「本件施行通達」という。)では、上記①ないし③の考慮要素の重みづけについて明確に定められていないことに照らせば、Xらの主張は採用できない。
他方で、Y社は、常に個々の労働条件を比較対象とすべきではないと主張する。しかし、本件施行通達では不合理性について「個々の労働条件ごとに判断される」としているほか、個々の労働条件ごとに相違の不合理性を判断する場合においても、当該労働条件と密接に関連する労働条件や賃金体系全体については上記③のその他の事情として考慮することができると解されるから、Y社の主張は採用できない。
(3)Xらと無期契約労働者の職務内容等の相違等
ア 本件において、原告らとの比較対象となる無期契約労働者は、原告らと同じ製造ラインに配属された無期契約労働者(組長を除く。)であることに争いはない。以下、各考慮要素を順に検討する。
イ 業務の内容の相違
(ア)定常業務
a.X1関係
B系ヘッドライン、B系ブロックライン及びC系ヘッドラインのエアブロー工程及びリークテスト工程は、X1及び無期契約労働者がそれぞれ担当しているから、X1の担当業務は、定常業務に関し、その無期契約労働者と同一の業務に従事していると認められる。B系ヘッドライン、B系ブロックライン及びC系ヘッドラインの加工工程は無期契約労働者のみ担当しているが、ギアケースラインについては、加工工程についてもX3と無期契約労働者が三交替制で勤務しているから、無期契約労働者と有期契約労働者で相互に代替可能な業務であると認められる。
これに対し、Y社は、無期契約労働者のみがエンジンを鋳潰すかを決定する業務を担当しているから、無期契約労働者と有期契約労働者で業務の内容に相違があると主張する。しかし、エンジンを鋳潰すか否かについては、X1が所属する製造部のエンジン製作課の労働者ではなく、品質保証部所属の無期契約労働者が最終的に判断するのであるから、これをX1と無期契約労働者の業務の相違と捉えることは相当でない。
b.X2関係
X2は、1日の生産台数が100台以上の時は、無期契約労働者であるIと組立作業の前半と後半に分かれて作業を行うところ、その前半と後半で難易度に差があるわけではないし、生産台数が100台未満の際には、そもそも組立作業の全体をX2が担当している。また、マーシャリング作業については、生産台数によってX2と無期契約労働者であるJで担当者を交替している。したがって、X2のサブ組立ラインにおける定常業務はIやJといった無期契約労働者の作業と同一であると認められる。
これに対し、Y社は、①無期契約労働者のみが親メタルラインでエンジン内部の組立作業に従事していること、②無期契約労働者であるIのみが組立順序作業に従事していることから、X2と無期契約労働者で業務の内容に相違があると主張する。しかし、X2は平成17年1月14日から平成18年4月末まで、エンジンブロックの組立作業を行う親メタルラインに配置されていたところ、その当時と現在で親メタルラインの業務内容に相違があるとは証拠上認められない。また、Iは無期契約労働者ではない派遣労働者ないし有期契約労働者の時から組立順序作業を担当しており、その当時に比べて現在の方が作業の難易度が上がっているとまでは証拠上認められない上、組立順序作業は組立順序表に従って実施され、組立順序の変更に関してIには裁量はない。そうすると、親メタルラインでの作業及び組立順序作業のいずれも、現在無期契約労働者のみが従事していることをもって、X2と無期契約労働者で業務内容が相違していると認めることはできない。
c.X3関係
X3は、他の無期契約労働者と三交替制であるため、他の無期契約労働者と同一の業務に従事している。
これに対し、Y社は、無期契約労働者のみが精密作業及びライン設備の修理作業に従事しており、無期契約労働者とX3で業務の内容に相違があると主張する。しかし、過去には有期契約労働者が精密作業に従事したこともあることに加え、X3も上記各作業の教育を受けたことがあるから、精密作業を遂行できる能力がある者は有期契約労働者でも当該作業に従事できるのであって、無期契約労働者と有期契約労働者で業務内容が相違していると認めることはできない。この点については、有期契約労働者が当該作業に従事していた事実が重要であって、Y社が主張するように当該有期契約労働者が後日中途採用されたことは、上記結論を左右しないというべきである。
d.以上によれば、Xらと同一の製造ラインに配属された無期契約労働者との間で、その定常業務の内容に相違はないと認められ、この点に関するY社の主張は採用できない。
(イ)管理業務及び新機種関連業務
管理業務及び新機種関連業務は、共に定常業務の円滑な遂行を支える点で、Y社において重要な業務であると認められるところ、職制に就任している者のほか、ラインごとの組長と同等の能力を持った無期契約労働者のみに割り当てられ、有期契約労働者は、その職務遂行能力にかかわらず、当該業務を担当することはない。
したがって、職制に就かず、Xらと同一の製造ラインに配属された無期契約労働者のうち一部の者については、Xら有期契約労働者とは異なる業務を担当している点で、Xらの業務内容とは相違していると認められる。
(ウ)業務改善提案
業務改善提案は焼き直しによる提出が容認されているほか、その提出までの所要時間が比較的少なく、労働者の職務に占める時間的割合が小さいと認められる。
(エ)5S活動及び自衛消火隊の活動
5S活動及び自衛消火隊の活動に無期契約労働者のみが従事していることを認めるに足りる証拠はない。
(オ)小括
Xらと同一の製造ラインに配属された無期契約労働者との間で、その定常業務の内容に相違はなく、管理業務及び新機種関連業務は重要な業務であるものの、無期契約労働者のうち一部の者について業務が異なるにすぎず、そのほかの業務に大きな差異も認められないことからすると、Xらと比較対象となる無期契約労働者との業務の内容に大きな相違があるとはいえない。
ウ 業務に伴う責任の程度に関する相違
作業ミスが発生した場合、有期契約労働者と無期契約労働者のいずれも、報告書の提出を義務付けられている点で差異はない。また、現に発生したミスについて、リカバリーや修正のための対応手順を決めるのは、職制に就任している者又はそれと同等の能力を持つ無期契約労働者の一部であって、無期契約労働者全体と有期契約労働者全体で相違があるものではない。
他方で、品質不具合の再発防止のための対応については、無期契約労働者のみが、再発防止の継続実施及び改善対応を実施し、その責任を負い、有期契約労働者はその責任を負わない。したがって、職制に就かず、Xらと同一の製造ラインに配属された無期契約労働者であっても、ミスの発生時及び発生後の対応の程度が異なっており、無期契約労働者と有期契約労働者で業務に伴う責任の程度が一定程度相違していると認められる。さらに、Y社は、無期契約労働者が有期契約労働者よりも優先して時間外・休日労働を命じられると主張し、E証人も同旨の供述をするが、無期契約労働者と有期契約労働者の時間外・休日労働時間にどの程度差異が生じているかは証拠上明らかでないことから、この点は、業務に伴う責任の程度を左右しないというべきである。
エ 職務の内容及び配置の変更の範囲に関する相違
Y社においては、無期契約労働者のみ組長以上の職制に就くことができ、有期契約労働者が職制に就くことはない。そして、Y社において採用される無期契約労働者は、将来、組長以上の職制に就任し部下を指揮する立場や組長を補佐する立場となる等してY社における重要な役割を担うことを期待されて、定期的な研修が実施されているほか、職能資格の昇格時には特定の通信教育のカリキュラムを受講することが義務付けられるなど、継続的な教育訓練と長期間の勤務経験を積みながら育成されるものと認められる。このことは、無期契約労働者で組長と同等の能力を持つ者に管理業務及び新機種関連業務を担当させたり、ミスが発生した際のリカバリーや修正のための対応手順を決めさせたりしていることからも裏付けられる。
他方で、有期契約労働者については、定期的な教育訓練は実施されておらず、有期契約労働者を中途採用制度により無期契約労働者とする場合であっても、職制に就任させるためには3年程度の無期契約労働者としての勤務経験を経ることが必要である。そのため、有期契約労働者全体について、将来、組長以上の職制に就任したり、組長を補佐する立場になったりする可能性がある者として育成されるべき立場にあるとはいえない。
したがって、Xらと無期契約労働者の間には、職務の内容及び配置の変更の範囲に関して、人材活用の仕組みに基づく相違があると認められる。
これに対し、Xらは、有期契約労働者も、中途採用により無期契約労働者となった後に職制に就任することがあるから、組長になり得ると主張する。しかし、Y社においては、有期契約労働者のうち、将来的に組長に昇任させたい人材や組長を補佐するのに適した人材等を選抜して無期契約労働者に採用しているのであるから、中途採用されていない有期契約労働者全体と、中途採用者を含む無期契約労働者に上記のとおり差異があることは否定できないというべきである。
オ その他の事情
中途採用は、ほぼ毎年実施されており、現に平成28年2月時点では、Y社において採用された無期契約労働者であって職制にある11名のうち、9名が有期契約労働者から中途採用されており、無期契約労働者と有期契約労働者の地位が必ずしも固定的でないことは、本件相違の不合理性を判断する際に考慮すべき事情といえる。
(4)本件相違の不合理性
上記(3)のXらと無期契約労働者との職務内容等の相違等を踏まえて、本件手当等の労働条件ごとにその不合理性を検討する。
ア 賞与
一般的に、賞与は、支給対象期間の企業の業績等も考慮した上で、毎月支給される基本給を補完するものとして支給され、支給対象期間の賃金の一部を構成するものとして基本給と密接に関連し、賃金の後払としての性質を有することに加え、従業員が継続勤務したことに対する功労報奨及び将来の労働に対する勤労奨励といった複合的な性質を有するものと解されており、Y社における賞与についても、これと同様の性質を有するものと推認される。そして、これらの性質については、無期契約労働者だけでなく有期契約労働者にも及び得ることは、Xらの指摘するとおりである。
しかし、前記のとおり、無期契約労働者と有期契約労働者で業務に伴う責任の程度が一定程度相違していること、職務の内容及び配置の変更の範囲に関する相違に関してみたとおり、将来、組長以上の職制に就任したり、組長を補佐する立場になったりする可能性がある者として育成されるべき立場にある無期契約労働者に対してより高額な賞与を支給することで、有為な人材の獲得とその定着を図ることにも一定の合理性が認められること、Xらにも夏季及び冬季に各5万円の寸志が支給されていること、中途採用制度により有期契約労働者から無期契約労働者になることが可能でその実績もあり、両者の地位は必ずしも固定的でないことを総合して勘案すると、一季30万円以上の差が生じている点を考慮しても、賞与におけるXらと無期契約労働者の相違が不合理なものであるとまでは認められない。
これに対し、Xは、厚労省ガイドライン案に照らしてY社の賞与における相違は不合理であると主張する。
しかし、労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件の相違が不合理なものであることを禁止した規定であり、同一労働同一賃金の原則を定めたものと解することはできない。そして、上記ガイドライン案の前文には、同案をもとに、法改正の立案作業を進めることが予定され、今後、関係者の意見や改正法案についての国会審議を踏まえて、同案を最終的に確定すると記載されていることに鑑みると、労働契約法20条の不合理性判断に際して、少なくとも現時点の同案を参酌する必要があるとはいえず、Xの主張は採用できない。
イ 家族手当
昭和14年にインフレを抑制するために発出された賃金臨時措置令を受けて賃金引上げが凍結されたが、物価上昇によって、扶養家族を有する労働者の生活が厳しさを増したことから、翌年、一定収入以下の労働者に対し扶養家族を対象とした手当の支給が許可されたことにより、多くの企業において家族手当が採用されたこと、その後、第2次大戦直後のインフレ期には、労働組合が生活保障の要素を重視する観点から家族手当の支給や引上げを要求し、企業もそれに応じ、高度経済成長期には、いわゆる日本的雇用システムが構築され、正規雇用者として長期に雇用される男性世帯主を中心に支給される家族手当が、従業員に対する処遇として定着したことが認められる。Y社においても、家族手当は、生活補助的な性質を有しており、労働者の職務内容等とは無関係に、扶養家族の有無、属性及び人数に着目して支給されている。
上記の歴史的経緯並びにY社における家族手当の性質及び支給条件からすれば、家族手当が無期契約労働者の職務内容等に対応して設定された手当と認めることは困難である。そして、配偶者及び扶養家族がいることにより生活費が増加することは有期契約労働者であっても変わりがないから、無期契約労働者に家族手当を支給するにもかかわらず、有期契約労働者に家族手当を支給しないことは不合理である。
これに対し、Y社は、平成23年時点で、無期契約労働者に家族手当を支給する企業の割合と比べて、有期契約労働者が無期契約労働者と同様の職務に従事していると企業が認識している場合であっても有期契約労働者に家族手当を支給する企業の割合は極めて低いと主張し、これに沿う証拠として厚生労働省労働基準局の「平成23年有期労働契約に関する実態調査(事業所調査)報告書」(以下「実態調査報告書」という。)を挙げるほか、雇用システムの相違それ自体及び各考慮要素における相違を理由として、より手厚い生活補助を無期契約労働者に対し講じることは不合理ではないと主張する。
しかし、各企業の家族手当の支給条件はそれぞれ異なると予想されるところ、有期契約労働者と無期契約労働者に対して家族手当を支給する企業の割合を単純に比較することは必ずしも相当とはいえない。加えて、有期契約労働者について雇止めの不安があることによって合理的な労働条件の決定が行われにくいことや、処遇に対する不満が多く指摘されていることを踏まえて、有期労働契約の労働条件を設定する際のルールを法律上明確化し、期間の定めがあることによる不合理な労働条件を禁止するものとしたという労働契約法20条の制定経緯(本件施行通達参照)に鑑みれば、平成23年当時の企業実態の大勢を重視することは相当とはいえない。また、Y社における家族手当の支給条件が、職務内容等の相違に基因するものとはいえないことは上述のとおりである上、上記法の制定経緯に照らせば、雇用システムの相違自体や中途採用制度の存在を含む各考慮要素の相違をもって、その支給対象を無期契約労働者に限定することの不合理性が否定されるとも解されない。したがって、Y社の主張は採用できない。
ウ 住宅手当
(ア)Y社は、無期契約労働者に対して一律に住宅手当を支給しているわけではなく、民営借家、公営住宅又は持家に居住する無期契約労働者に住宅手当を支給している。そして、民営借家居住者には公営住宅居住者及び持家居住者と比べて高額な手当を支給し、扶養者がいる場合にはより高額な手当を支給している。また、賃貸契約の場合、当人が賃貸契約の当事者であることを要件としている。
そうすると、Y社の住宅手当は、住宅費用の負担の度合いに応じて対象者を類型化してその者の費用負担を補助する趣旨であると認められ、住宅手当が無期契約労働者の職務内容等に対応して設定された手当と認めることは困難であり、有期契約労働者であっても、住宅費用を負担する場合があることに変わりはない。したがって、無期契約労働者には住宅手当を支給し、有期契約労働者には住宅手当を支給しないことは、不合理であると認められる。
(イ)これに対し、Y社は、配置の変更の範囲が広い無期契約労働者は、潜在的に住宅に要する費用が有期契約労働者よりも高くなるから、無期契約労働者のみに住宅手当を支給することは不合理ではないと主張する。しかし、Y社の従業員は、勤務地の変更を伴う異動は想定されていないから、無期契約労働者が有期契約労働者に比して、潜在的に住宅費用が高くなると認めることは困難である。
また、Y社は、住宅手当は、その歴史的背景として、家族手当と同様に年功序列型賃金の一内容として定着したと主張するが、その主張を裏付ける的確な証拠はない上、Y社における住宅手当の内容は上記(ア)のとおりであって、これを年功序列型賃金の一内容とみることはできない。
さらに、Y社は、実態調査報告書に依拠して有期契約労働者に住宅手当を支給する企業の割合は極めて低いとか、無期契約労働者に対してより手厚い生活補助を講じることに合理性がある旨主張するが、そのようなY社の主張が採用できないことは上記イのとおりである。
エ 精勤手当
無期契約労働者には、月給者(連続1か月未満の欠勤については、基本給の欠勤控除を行わない者をいい、事務・技術職とされる。)と月給日給者(欠勤1日につき、月額基本給の1/20.3の金額を欠勤控除する者をいい、技能職とされる。)がいるところ、Y社は、月給日給者かつ当該月皆勤者に限り精勤手当を支給しており、月給者には精勤手当を支給していない。そうすると、精勤手当の趣旨としては、少なくとも、月給者に比べて月給日給者の方が欠勤日数の影響で基本給が変動して収入が不安定であるため、かかる状態を軽減する趣旨が含まれると認められる。他方で、Y社が主張するように、無期契約労働者に対して精勤に対する見返りを支給し、会社に対する貢献の増大を図るために精勤手当が設定されたと認めるに足りる証拠はない。
そして、有期契約労働者は、時給制であり、欠勤等の時間については、1時間当たりの賃金額に欠勤等の合計時間数を乗じた額を差し引くものとされ、欠勤日数の影響で基本給が変動し収入が不安定となる点は月給日給者と変わりはない。したがって、無期契約労働者の月給日給者には精勤手当を支給し、有期契約労働者には精勤手当を支給しないことは、不合理であると認められる。
Y社は、実態調査報告書に依拠して有期契約労働者に精勤手当を支給する企業の割合は極めて低いと主張するが、かかる主張が採用できないことは上記イのとおりである。
争点2 労働契約法20条の効力(補充的効力の有無)について
(1)労働契約法20条が「期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止」との見出しの下に「不合理と認められるものであってはならない」と規定していることから、同条に違反する労働条件の定めは無効というべきであり、同条に違反する取扱いは、民法709条の不法行為が成立する場合があり得るものと解される。
そして、労働契約法は、同法20条に違反した場合の効果として、同法12条や労働基準法13条に相当する補充的効力を定めた明文の規定を設けておらず、労働契約法20条により無効と判断された有期契約労働者の労働条件をどのように補充するかについては、無期契約労働者と有期契約労働者の相違を前提とした人事制度全体との整合性を考慮した上、労使間の個別的又は集団的な交渉に委ねられるべきものであって、裁判所が、明文の規定がないにもかかわらず労働条件を補充することは、できる限り控えるべきものと考えられる。
この点、労働契約法の改正の際の国会審議において、政府参考人から、労働契約法20条により「不合理であり無効とされた労働条件はどうなるかについては、基本的には、無期契約労働者と同じ労働条件が認められるものと考えます。」(平成24年7月25日第180回国会衆議院厚生労働委員会議録第15号(甲21・24頁、25頁))とする説明がされ、本件施行通達においても「無効とされた労働条件については、基本的には、無期契約労働者と同じ労働条件が認められると解されるものであること」とされている。
しかし、いずれにおいても「基本的には」という留保が付されていることから、常に補充的効力を肯定する趣旨とは解されない。そして、例えば、就業規則が全従業員に適用され、その一部条項のみ有期契約労働者の適用を除外する定めが置かれているような場合には、当該定めを無効とすることにより、結果として有期契約労働者についても無期契約労働者と同様に当該就業規則が適用されることになるが、そのように就業規則等の規定を合理的に解釈することができない場合には、前記のとおり、不法行為による損害賠償責任が生じ得るにとどまるものと解するほかないというべきである。
(2)本件では、無期契約労働者の就業規則は、有期契約労働者については別に定める就業規則を適用すると明記している。無期契約労働者の賃金規程においても、無期契約労働者に適用する賃金に関する事項を定めると規定し、試用社員について家族手当を除き賃金規程を準用し、嘱託、準社員及び臨時については、別に定める基準によると規定しているが、有期契約労働者については言及がない。そして、有期契約労働者の就業規則には、無期契約労働者の就業規則に基づき、有期契約労働者の労働条件等を定めると規定し、賃金についてもその就業規則において規定している。また、Xらの労働契約書をみても、無期契約労働者の就業規則及び賃金規程が適用されることを前提とする約定は見当たらない。
以上のとおり、無期契約労働者の就業規則等とは別個独立のものとして有期契約労働者の就業規則等が存在しており、関係する就業規則等の規定を合理的に解釈しても、有期契約労働者に対して、無期契約労働者の労働条件を定めた就業規則等の規定を適用することはできない。
(3)そうすると、XらのY社に対する、無期契約労働者に関する就業規則等の規定が適用される労働契約上の地位に在ることの確認を求める請求及び平成25年5月から平成27年4月までに支給される本件手当等について、Xらに当該就業規則等の規定が適用されることを前提とした労働契約に基づく賃金請求には理由がない。
(4)他方で、X2は、祖母が平成26年11月22日に死亡するまで祖母を扶養しており、同月分までは家族手当の支給要件に該当すること、X1は、扶養者がなく、自らが賃借人となって民間住宅の賃貸借契約を締結して現在に至るまで居住し、賃料を支払っており、住宅手当の要件のうち「無扶養者かつ民営借家居住者」に該当すること、Xらは、一部の月を除き、精勤手当の支給要件に該当することから、Xらに対する上記各手当(以下「本件各手当」という。)の不支給は、Xらに対する不法行為を構成するというべきである。
価格:2,200円 |



